021 最近のイラスト、印刷のはなし

前回「線のはなし」につづき今回は「印刷のはなし」。


最近投稿しているイラストはどれも、デジタル作画した原稿を色ごとに分版し、家庭用のインクジェットプリンターで白黒印刷、それをスキャンして再度デジタル合成している。なんて回りくどいことを…と自分でも思うけれど、いまのところこの工程はけっこう重要になっている。僕の関心は色とか質感に偏っていて、そうした要素に頼らないデジタルイラストは絵の上手さとか内容の迫力で勝負しているかんじがあってなかなか挑めないのだけど、かといって逐一リソグラフの印刷を依頼していては時間もお金もかかってしまう。そんなわけで、それっぽい絵をお手軽につくれないかと試行錯誤した結果がこの方法。

リソグラフは印刷面の風合いに見応えがあるのが良いところなのだけど、この印象を実際の印刷工程もふまえて考えてみると、①ハーフトーンやディザなどの変換がなされること ②紙にインクがのる、にじむことによる風合い ③特色印刷であること この3点が特徴且つデジタルで再現できそうな要素になる。以下でそれぞれを再現する実際の手順を解説してみる。

①リソ印刷は色ごとに分版したデータが必要なので、僕は普段から分版前提でレイヤー分けしている。色ごとにグループを分け、黒一色で塗り分けたレイヤーを不透明度で濃度調整する。塗りたい色で全面を塗りつぶしたレイヤーを作画グループに対してクリッピングマスクすると、濃度調整された絵に色がのり、おおまかなプレビューになる。こうして出来た色ごとの作画画像をカラーモード「モノクロ2諧調」に変更することで、ハーフトーンやディザなどの1ビット画像に変換できる。

②1ビットに加工された画像を印刷サイズに配置し、インクジェットプリンタで印刷する。うちのプリンタはCanon TS3330 というお安めの複合機だが、白黒印刷:普通紙:品質 最高 の設定で刷るとしっかりとしたプリントができる。紙は節約のため両面印刷ができるように、またインクによる反り歪み防止の為、厚めの画用紙を使用。竹尾の紙を複数試しているが、NTラシャ、風光、ゴールデンアローあたりの白色紙がほどよい。印刷し乾燥したら、複合機のスキャナで取り込み、レベル補正で調整する。白側は紙のテクスチャが消える程度に、黒側はインク部分の最暗部が真っ黒になるようにする。補正後、「シャープ強」のフィルタをかけると心なしかキリッとする。

③調整したスキャナ画像を版単位にレイヤー分けする。各レイヤーの白黒情報をもとに「レイヤーマスクを作成」し、インク面(黒)以外を透過させる。この透過レイヤーに対し、①でプレビューしていた色レイヤーを「クリッピングマスクを作成」で適用すれば、色のついた網点状の画像ができる。一般的な印刷はこの色がCMYKの4色で固定だが、今回は特色印刷であるリソグラフを模すので色は好きなように選ぶ。加工した各版を好みのブレンドモード(たいていは乗算、ときどき通常)で重ねると完成。最後に気持ちだけの彩度調整とトーンカーブをかける。


ざっくりだがこうした手順だ。ほとんどの設定はPhotohsopのアクション機能で効率化可能なので意外と手間はすくないが、まあ回りくどいことには変わりない。

この記事を書いている途中、デジタルで印刷っぽいルックを得るためのノウハウをみつけた。これはブラシテクスチャに質感を付加する手法で、もちろん印刷などしないスマートな方法だ。もっと早く知りたかった…。スマートな方法を知ると自分のやり方がバカっぽく思えてくるが、微細な不均一さが都度あらわれること、紙を変えることで印象も調整できること(例えば新鳥の子という和紙系の紙では水墨的なにじみができる)など、物理的な出力をおこなうことでデジタルでの複雑な再現作業なしに(文字通り)リアルな質感が得られるのはメリットだと思う。個人制作ではこういう気安さが頼もしい。この方法がつかえるようになってから、SNS投稿への心理的なハードルがものすごく減った。最近は「効率よりまず実行」という気持ちなので、しばらくはこの方法でやってみようと思う。